東京都庭園美術館の「アールデコの館-庭園美術館建物公開」を観に行った 後編


先のエントリーからの続きです。東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)の1階を見てきましたが、1階の多くはパブリック・スペース、つまり来客用の施設がほとんどでしたが、2階は朝香宮のご家族が生活をしたプライベート・スペースとなっています。
プライベート・スペースと言いながら1階のパブリック・スペースに全く引けを取らない独特個性と美しさがあります。特に注目すべきは、各部屋や階段、廊下に備えられた個性溢れる照明器具です。部屋毎に美しく独特の形状をした照明器具が備わっており、また階段や廊下等の照明器具も同様に美しいです。


1階大広間から2階への階段です。1階の階段の手摺にはブロンズ製装飾が施されています。階段の踊り場から2階大広間を眺めると(右側の写真)、階段を登りきったところに花文様があしらわれた照明柱があり、広間の天井には大きな円形の照明があります。
中央階段・2階大広間
中央階段は1階大広間から2階の広間へ通じ、朝香宮邸当時はパブリック・スペースからプライベートスペースへの階段でした。2階広間には作り付けのソファーがあり、ピアノが置かれ、ご家族のくつろぎの場となっていました。階段は外国製の大理石を用い、手摺のデザインはアール・デコの特長であるジグザグ模様が強調されています。階段手摺に嵌めこみ金物はブロンズ製銀イブシ彫刻仕上げで、ホール照明柱、天井照明と同様にアール・デコ特有の幾何学的花模様で統一されています。照明柱の付け根部分には花を飾ることができるように水盤が備え付けられるなど、細部に渡って意匠を凝らした設計となっています。
(設計、宮内省匠寮)

2階広間の花模様が金属で描かれた照明柱。照明の乳白色と花文様の黒のコントラストが一際目立ちます。

同じく2階広間の天井の照明。円形の大きな照明の周囲に小さい灯が配置されています。

2階広間にあるのが、藤森朗という蓄音機研究家が所蔵する、英国グラモフォン社製の蓄音機「HMV194型」です。


2階に上がって右手に入ると、若宮寝室、合の間、若宮居間と続きます。上の写真は若宮寝室の照明とラジエーターカバーです。
例によってパネルから解説を引用すると以下の通りです。
若宮寝室・合の間・若宮居間
建物2階東側の約3分の2を占めるのが若宮寝室・合の間・若宮居間の3室です。北東の角に位置し2面採光の開放的空間を持つ若宮寝室、白漆喰のヴォールト天井と渋い漆喰壁のコントラストが和洋混合の面白さを持つ合の間、正面玄関の屋根をベランダとし、大理石の暖炉をもつ若宮居間。各部屋とも天井の白と木部の茶の対比が印象的です。1階の照明はラリック等の制作によるフランスからの輸入品、2階の各部屋の照明は宮内省内匠寮のデザインによる国産品です。
各部屋ごとに意匠が凝らされた照明器具も朝香宮邸の見所のひとつといえましょう。
(設計、宮内省内匠寮)


合の間には4つの調度品が展示されていました。左がルネ・ラリック制作の花瓶「オラン」、右が同じくルネ・ラリックによる「電灯式多岐型燭台」。


そして平鉢「金魚」。こちらもルネ・ラリック作。上部の茶色に鮮やかなピンク色の薔薇の花弁が映える花瓶は、デザインをアンリ・ラパンが担当し、絵付けをモージュ・タロウドが手がけたもの。いずれも見応えがあります。


壁、床、天井と白を基調としており、柱や窓辺の茶木との対比が印象的な若宮居間です。シンプルで清潔感がある室内に鮮やかなステンドガラスのようなカラフルな照明具がアクセントを与えています。


若宮居間と殿下居間の間にあるのが書庫です。左右の壁にはスライド式の本棚が備わっており、当時は大量の書籍が収まっていたのでしょう。書庫の照明は小さくシンプルな球体ですが、天井の付け根部分には五芒星をあしらった装飾が施されています。

書庫の隣にあるのが「殿下書斎」です。内装を担当したのはアンリ・ラパンで美しく調和した印象があります。
殿下書斎
書斎は正方形の部屋の隅に飾り棚を設置することにより室内を円形に仕上げています。シトロエニ材の付け柱が配置され、天井はドーム壁を形作り、間接照明も効果をあげ求心的な空間が演出されています。絨毯、机、椅子は当時殿下が使用されていたものです。室内、家具などすべてに統一したデザインが施されています。左隅には書庫が併設されています。
(内装 アンリ・ラパン)


「殿下の居間」の照明と付け柱の装飾です。部屋の写真が人が多すぎたため撮るのを止めました。


殿下寝室とその照明です。若宮居間と同じく白と茶色の対比に清涼感を感じます。照明器具は逆三角形の形状をしており、黒い唐草文様のような装飾があしらわれています。

2階のバスルームです。西洋的にバスルームとトイレが一緒になっています。床はタイルが敷き詰められモザイク模様が描かれています。

続いては「妃殿下寝室」です。こちらも混雑していたため部屋の写真はありませんが、天井は白を基調としており清潔感があります。
妃殿下寝室
妃殿下自身がデザインされたラジエーター・カバー、楕円形の鏡の付いた白いドア、布シェード付きの上下に移動のできる照明等、女性の部屋らしい雰囲気に溢れています。妃殿下は芸術に対して造詣が深く、自らラジエーター・カバーのスケッチを描いたり、壁紙の選択を行なうなど、この建築の設計に積極的に参加されました。
(設計、宮内省内匠寮)


妃殿下寝室の壁上部に設けられた円形のラジエーターカバーと、壁の下方に設けられた長方形のラジエーターカバー。他の部屋と異なり壁に嵌めこまれています。

妃殿下寝室から2階ベランダへ出ることができます。ベランダの照明は三角錐の形状をしています。写真には写っていませんが、床は市松模様です。ベランダには長椅子が置かれ休憩している人達がいました。


2階ベランダの奥にあるのが「妃殿下居間」です。若宮居間、殿下居間と同じように白を基調とした部屋ですが、照明は丸い球体のライトで構成されており、柔らかく優しい印象があります。
書庫と同じく天井には五芒星をあしらった装飾が認められます。

庭園美術館の北にあるのが「北の間」です。
北の間
北側に位置するこの部屋は北の間と呼ばれ、南面ベランダに対して、夏期の家族団欒の場として使用されていました。上部には天窓を設け外光を採り入れ、床にはテラコッタタイルを貼り、開放的な屋外の雰囲気を演出しています。2階広間との仕切りの窓フレームは幾何学的直線が施され、モダンな空間を形成しています。
(設計、宮内省内匠寮)


白い天井に、薄い緑色のモザイクのような模様の壁紙に、重厚な家具が置かれた2部屋が「姫宮寝室・居間」です。
姫宮寝室・居間
この2部屋は壁紙と寄せ木の床が建設当時のままに見ることができます。手前が寝室、奥が居間となっています。居間にはサーモンピンクの大理石の暖炉と円形の鏡があり姫宮の部屋に相応しい可憐な和らぎを感じさせます。壁紙は妃殿下のアドバイスのもとに、姫宮の好みで選ばれたとのことです。居間は紅色の波形ストライプ、寝室はブルーを基調とした直線と水泡模様のデザインの壁紙が貼られ、微妙に変化をもたらすメタリックな輝きを放っています。(スイス、サルブラ社、製品名テッコー)
暖炉の衝立式ラジエーター・カバーは妃殿下のデザインと言われています。
(設計、宮内省内匠寮)

姫宮寝室・居間の廊下にはステンドガラスのようにカラフルなガラスで、星型の照明が釣り下がっていました。

中三階に上がる階段の下には「中三階倉庫」があります。
中三階倉庫
この部屋は、朝香宮邸新築計画の当初より倉庫として設計された空間です。他の部屋に比較して装飾は控えめですが、鉄製両開き窓(現存せず)や防火シャッター付きの鋼製引き戸が採用されるなど、竣工当初はたいへん堅牢に仕上げられていました。部屋南側の舞台状張出部は、宮邸二階に設けられた金庫室の突出部を覆う目的で設営されたものと考えられます。宮家が皇籍離脱によってこの地を手放された後、西武鉄道の所有となって「白金迎賓館」と呼ばれていた時代には、部屋の南西部にバーカウンターが設えられていました。腰壁杉板の塗り残し箇所はその名残です。この部分から、竣工当初の室内木部は白木のままの仕上げであったことが分かります。


中三階には今回新たに公開された「中三階多目的スペース(朝香宮邸倉庫)」で「開館25周年記念ポスター展」が開催されていました。


3階には元々温室として設計された「ウィンターガーデン」があります。温室なので壁に蛇口があります。床は市松模様の大理石です。


10月12日本日は「お庭の日」ということで茶室が公開されていました。
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